イベント報告

波瀬満子命日の会 [2013.06.23]

<ウリポ> public performance 2013
VOICE!ウリポ! ことばがことばを超えるとき

長くことばの道を歩き続けたはせみつこが、2012年4月19日 突然人生の幕を降ろしました。
彼女の残した業績を未来に繋げるために立ち上げられた「新生ウリポ・はせ・カンパニー」主催で、はせみつこ一周忌公演 「<ウリポ>public performance 2013 VOICE!ウリポ!ことばがことばを超えるとき」が、6月23日に東京ウイメンズプラザにて行われました。はせみつこと共に仕事をしてこられた谷川俊太郎、武井照子、郡山半次郎、谷川賢作をゲストに招いて行われた新生<ウリポ>の第一回公演です。    
「<ウリポ>がはせみつこをリニューアルする!」の呼びかけに約130人が集まりました!

【プログラム】

1部『ことばをあるく』
対談 谷川俊太郎×武井照子
はせみつこの原点から亡くなるまでの活動を振り返りながら、未来を見据える。
2部『ことばとあそぶ ことばでつなぐ』
はせみつこ(映像・声)×谷川俊太郎×郡山半次郎×谷川賢作
3人のゲストがはせみつこの映像・声とコラボレーション。
映像鑑賞(「徹子の部屋」出演の映像など)

第1部

舞台中央のスクリーンにはせみつこの自己紹介「吾輩はハセである」の映像が流れる。
「何かはせさんがいるみたいですね」という谷川さんの言葉を皮切りに対談が始まった。

命日のイベント:対談

<はせみつことの出会い 「ことばあそびの会」設立> 

はせみつことの最初の出会いから、ことばあそびの教材作り(「小1チャレンジ」ベネッセ教材用テープ「「あ」であそぼう」)、また「ことばあそびの会」設立の目的、経緯、意義などが語られる。

武井:彼女がことばを音みたいにして捉えて、とにかく楽しいことをずっとやってきたということが、半分は感動みたいなものがあって、この人変だなあと思うと同時に、この人面白い!って思ったんですね。
谷川:僕と川崎洋さんが仮面座の稽古場に呼ばれて詩の朗読を聞かせてもらったんですよね。そしたら彼らは、古い朗読に反逆して飛び出しているのにやっぱり詩を大事に読みすぎているんですよ。それでちょっと壊してやろうと思って、大声でわめいたりして僕がやったら、それがちょっとショックだったみたいで、「こんなふうに読んでいいんだみたいな…」そのへんから付き合いが始まったんです。
谷川:「ことばあそびの会」に関わるようになってから、印刷じゃなくて声に出して実際に聴衆と交流する大切さというのがだんだん分かってくるようになったっていうことがありますね。それと同時に僕自身も自作朗読っていうのを意外と熱心になっていったんですね。すると「活字で読んでいるのとは全然違う印象を受けた」とか、「目で読んでいたら全然わかんなかった詩が、耳で聞いたらわかった」とか言ってもらえるんです。

<「やってきたアラマせんせい」誕生>

「やってきたアラマせんせい」の映像を見ながら、その誕生の経緯などが語られる。

谷川:はせさんはこういうふうに即興的に子どもと対話するのってうまかったですね。
武井:子どもとの対応がとてもいい。ことばがいっぱい出てくるっていうのは、自分のことを空っぽにして相手のことを必死で聞いて、そこから出てくるのが面白いですね。はせさんはそれが出来る人だったと思います。
谷川:はせさんはいい意味で空っぽの人だったんじゃないでしょうか。言語っていうのは自分が空っぽになった時に他人の言語が入ってくるんですよね。
武井:自分を空にするというのは難しいですよね。
谷川:普通の人は難しいですけどはせさんはそれを自然にできた気がする。<中略> 
子どもたちとそういう交流ができるのは、彼女は自分が大人だからだとか、自分が先生だとかいう意識が全然なくてパッと空っぽになっちゃう。障がい児とそれをやった時にほとほと感心したんだけど、全く自分が無くて、しかももちろん自分はあるんですけどね、そこでの交流の仕方というのは感激しましたね。

<障がいを持った子どもたちとの出会い>

障がい児のための言語指導の研究の過程で谷川さんがつくった詩(「ポイ」「モグモグ」など)を使って、はせみつこと障がいを持った子どもたちがあそぶ映像を見ながら、この研究が始まった経緯やプロセス、はせみつこが彼らとどう関わっていたのかが語られる。

谷川:舞台で近代詩とか読んでいるより時よりこの方が、はせさんははるかに生き生きしてますよね。それで、こっちに向いていると思ったの。一番感心したのは、重度の障がい児とやっている時に、ヘッドギアとかつけて起き上がれない子たちがいっぱいいるけど、その子たちとことばじゃない、スキンシップとしか言いようのない、あるいは意味のない声だけみたいなもので交流できる人だったんですよね。よだれ垂れてたって全然平気なんですよね。やっぱりほんとにすごいと思いましたね。

<世界へそして未来へ>

USA公演での映像を見ながら、日本語の魅力を伝えようと世界中を回り始めたはせみつこの思い、そして日本語の50音や「あいうえお」だけでいろんなパフォーマンスをやった発想のおもしろさが語られる。

<最後に>

「まとめて欲しい」というウリポの要望に対してのお二人のことばは以下のようだった。

谷川:まとめたら何かつまんなくなっちゃう気がする。だってはせさんの仕事をこれから継いでいこうという訳でしょ、我々は。だからへんにまとめたらはせさん死んじゃいますよ。生かしておかなきゃいけないんだから。
武井:谷川さんには、読むとか、しゃべるとか、見せるとか、演じるとかいろんな詩をお書きになっていただけたらと思っています。
谷川:はせさんが生きてたら、これやってくれたら面白かったのにというものがけっこうあるんですよね。

第2部

<セルフチェック・自己紹介>

はせみつこ、ヒトラー風「かきくけこ演説」の映像で二部がスタート。はせみつこが発する「かきくけこ」の様々な表情に呼応して賢作さんがサンポーニャを吹き、マラカスを振る。その後、3人のゲストがそれぞれ自己紹介。
谷川さんは自作の「自己紹介」の詩を朗読。郡山さんははせみつことの出会い、一緒にやった仕事に関して話された後、自作のことばあそびの詩「泣けないうた」を朗読する。最後に賢作さんが舞台上の床にマラカスなどの楽器を並べ、「け・ん・さ・く」を「ミ・フア・ソ・ラ」の音程にアレンジして、賢作ワールドに観客を巻き込んだ。

命日のイベント:ピアノ

<あいうえおインプロビゼーション>

はせみつこと谷川俊太郎のナンセンス会話「あいうえお」だけの会話の舞台映像を見る。

谷川:これから我々はこれをやるわけ?3人で?意味のないことを言うのってけっこうプレッシャーなんですよ、私たち人間は意味で毒されちゃってますから。

<ことばあそびうた>

「ゆっくりゆきちゃん」などのはせみつこの舞台映像を見ながら、郡山さんは「さる」「バッタ」など自作のことばあそびうたをパフォーマンスしたり、「かめさん」「きすするつもり」などの絵描き歌を披露。谷川さんは、「モコ」「ニョキ」などのことばに合わせて賢作さんが音を入れながら、「もこもこ」(作:谷川俊太郎、絵:元永定正)の絵本を読む。最後は賢作さんが作曲した「ことばとあそぶ」(はせみつこ絶筆詩)を皮切りに、「はせさんに聴いてほしかった、うたってほしかった特集」から賢作さん作曲の「うんこ」(詩・谷川俊太郎)、「おとなマーチ」(詩・阪田寛夫)、「ねこのうた」(詩・室生犀星)などをピアノで弾き語った。

命日のイベント:郡山さん

<「現代詩」そして「AIコール」>

「二十億光年の孤独」(谷川俊太郎)や「AIコール」などの舞台映像を見ながら、詩を演じるはせさんの声に、賢作さんが生音をかぶせ、「あ」「あい」「AI」のことばに呼応させることを試み、フィナーレ。「AI is love. Love is AI. またあいましょう!」のはせさんの声で幕が閉じられた。

※1部の対談をすべてを再録した冊子がございます。お読みになりたい方はこちらまでご連絡ください